白い道

 僕の好きな、「西行」の本である。出張先に持参した本を早く読み終えたので、Book-OFFに立ちより、手にした本だ。

 私は、西行法師が大好きだ。西行が伊勢神宮で読んだ歌として有名な「何事のおわしますかは知らねども、かたじけなさに涙こぼるる」や、自分の死を予言したと言われる歌「願わくは花の下にて春しなん そのきさらぎの望月のころ」などは知っていたが、その生涯については、学びを深めてこなかった。しかし、時は来るものである。私の好きな「白洲次郎」から、その妻である「白洲正子」を知った。そして、手にした本が「西行」である。そのなかで、遊女「妙(たえ)」との歌のやりとりが描かれている。歌舞伎や長唄の「時雨西行」や、能の「江口」である。それが、私を一気に、西行の虜にした。

 西行法師が、天王寺参詣の途中、急に雨が強くなり、遊女宿に一夜の宿をお願いするが、あっさりと断られる。その遊女が「妙」である。西行は、口惜しさに、歌を詠む。

 「世の中を厭うまでこそかたからめ かちの宿りを惜しむ君かな」悩み多い世の中を厭うて出家せよと頼むなら難しいでしょうが、一時の宿を貸すのも貴女は惜しむのですか?」

 「世を厭う人とし聞けば仮の宿に 心とむなると思うばかりぞ」あなたは悩み多い世の中を嫌って出家された方なのに、一時の宿に執着されるなと思うだけなのです」と、「妙」が、当意即妙の返歌をする。凄いね~。

 すっかり意気投合してしまう二人。再会を約束して別れたが、その月に、急用ができていけなくなったので、使いの者に文を託す。

 「かりそめの世に思いをのこすなと ききし言の葉わすられもせず」

 妙は、「わすれじとまきづきからに袖ぬれて 我身はいとう夢の世の中」「髪おろし衣の色はそめるるに なほつれなきは心なりけり」と返歌する。当日の遊女は、教養が深かった人がいたのだ。それがまた、切ない想いを駆り立てる。

 そして、この話を描いた白州正子が好きになった。そして、白洲正子の「私の百人一首」や「美の種をまく人」を手に取り、池袋のデパートで開催された「白洲次郎と白洲正子展」にも足を運んだ。

白洲次郎と白洲正子

 瀬戸内寂聴さんの「白い道」には、「妙」の物語は、書かれていない。しかし、橋本治さんの「双調 平家物語」で描かれたいた、白河法王を中心とした女たちの物語、特に、待賢門院院号を賜った「藤原璋子(たまこ)」と西行の絡みを中心に物語が進む。それを読むと、「妙」と「西行」との歌のやり取りが理解できると感じる。

 瀬戸内寂静さんが、現代に西行の足跡を訪ね、その随筆とともに西行の物語が浮かび上がってくる。「璋子」は、性に奔放な女だ。自分の祖父である白河法王との子を産む。天皇の夫がいても、臣下と一夜を共にしてしまう女だった。その女を「西行」は、一生涯、心に秘めていたはずだと、「白い道は」では語っている。それが、「西行」の詠んだ歌に、そして、遊行の「数寄の遁世」に向かわせたのだと、筆を進めている。この本を読んで、益々、西行が憧れになった。