「多度大社」の空

 天下の奇祭のひとつとして名乗りを上げているのが、三重県桑名市「多度大社」の「上げ馬神事」である。この神事は、毎年5月4・5日に行われ、起源は南北朝時代の暦応年間(1338~1341)と言われている。

 私も、だいぶ前に休みで帰省した時、初めて観に行った。神占いによって選ばれた少年騎手6人が、武者姿にて約二メートルの絶壁を人馬一体となって駆けあがる勇壮な神事である。観ているだけだったが、結構、ドキドキした。勇壮に駆け出す人馬一体の姿が、「上げ馬神事の坂」の最後の二メートルの絶壁を駆けあがろうとして垂直に観えた時には、大きな声援を挙げている自分がいた。そう、この神事は、観るものを興奮させるのである。

 この神事では、古くより農作の時期や豊凶が占われており、少年騎手の馬が、絶壁を数多く登り切れば豊作、少なければ凶作、また、最初の方の馬が上がれば「早稲(わせ)」、中頃で「中手(なかて)、そして、最後の方で上がれば「晩稲(おくて)」の苗を選ぶと良いとされ、稲の品種も占われてきたという。

 

 多度山を、神が坐します神体山と仰ぎ、5世紀後半からの歴史を持つ多度大社。しかし、当時の国分寺をはじめとする神仏のネットワークを築いて行く叡智には、驚かされる。何故、この地に建っているのと思わせる不思議さがある。でも、当時の人々にとっては、何かしらの編集力があったに違いない。「ここにする!」という答えを出す何かが動いていたに違いない。当時も、「ハブ・ノード・コア」というネットワーク理論の原型があり、その「ハブ」とは何だったのか。今の日本における高速道路や電力網などの物理的なネットワークではなく、「祈りのネットワーク」があったのだと考えている。この「祈りネットワーク」こそが、今の日本には必要なのではないかと思い始めている。それも、建物ではなく、一人ひとりの人間の祈りのネットワークである。

 多度大社の神事が、農業の豊凶や景気の動向だけではなく、日本人の「祈りの動向」を占う日が来ることを念じていきたい。

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