「伝えることから始めよう」

 ジャパネットたかた創業者 髙田明さんの一代記である。「面白い」。いろいろな経営指南書的な本は、一杯読んできた自負がある。しかし、この本は特別だ。

 この本を読んでみようとしたキッカケは、私の誕生日の日に観た、ある企業セミナーでの髙田さんの講演である。「面白い」。テレビショッピングで観る髙田さん、そのまんまが、画面上で楽しそうに喋っている。

 「楽しそう。これは本物だ」

 私は想うのだが、自分の仕事を「楽しく語れる」ということこそ、嬉しいことはない。「過去は宝。今は感謝。そして、未来は薔薇色」だったと思うが、そんな言葉が浮かんでくるほど、聴いてる私が嬉しくなってしまう講演なのである。私も、今までいろんな方の講演やお話を聴いたが、聴いてて嬉しくなってしまう講演は、なかなかないと思う。感心や感動はある。そこから共感してしまう。その共感も、「嬉しい」という感情にさせるお話は、そうは聴けないと思う。「ジャパネットたかた」の成功のポイントは、ここにあると確信している。

 私が、映像製作やイベントに取り組んでいた時、髙田社長の哲学を、引用させていただいたことがある。それは、SONYの「ハンディカム」という手のひらサイズのビデオコマーシャルに込められた想いである。従来の工法では、高額なビデオカメラを宣伝する際には、新機能を紹介するのが定番であった。しかし、「ジャパネットたかた」は違っていた。

「製品の機能を紹介するのではなく、新商品を手にすることによって得られる喜び・幸せを伝えたのである」

 私もよく、その映像を観たことを覚えている。そのカメラを社員に与え、好きな映像を撮らせてきたところ、多くが子供を中心とした家族の映像だったのである。その映像が、カメラの説明の際に画面に流れる。これなのである。

 多くの人は、それを買うことによって、自分の人生がどれだけ豊かになるか。自分では表立って気づかない願い・夢がある。その願い・夢が、ジャパネットたかたの広報によって目覚める。そうすると、自然と電話をかけている。商品の値段が高い安いではなく、その願い・夢が叶えられると想う、その重さが決定的に消費者購買行動に影響を及ぼすのである。

 私は、常にこう言ったものである。「映像製作の上手い下手ではなく、観る人が、人としての喜びを感じられる内容にしていこう。それを製作することが、私たちの使命です」と。

 私は、自分に人並み外れた才能だとか発想力やアイデアを生み出す力があったとは、まったく思いません。私がやってきたことは、経験を積めばだれにだってできることです。もちろん、できない人は最後までできないですけど、それには理由があるんです。だれだって、本気になって仕事をして経験を積んで、そして、本を読んだり人に話を聞いたりして勉強して、それを積み重ねていけば、できるようになりますよ。できないのは、まだ、本気度が足りないからじゃないでしょうか。

 どうしてできるかと言えば、本気でやっていれば勝手に課題が見えてくるんですよ。課題が見えてたら課題に向かう自分がいて、その課題を超えようと思ったらアイデアが出てくるんです。本当ですよ。私に他人と違ったところがあったとすれば、いつも目の前のこと、今やるべきことに、全身全霊を注いできた。常に自分の力を200%、300%の力を注いできたことだと思います。「今を生きる。」です。

「伝えることから始めよう」より

 髙田さんは、また、次のようにも語っている。

 「私は、やらなかった失敗はあっても、一生懸命にやった失敗はない」と。

 そして、そのパッションについても、こう述べている。

 「コミュニケーションで最も大事なことは何だと思われますか?私は『伝えること』ではなくて『伝わること』だと思います。」

 私は、本を読み終えて、伝えるコンテンツのラインナップを揃えることも大切だが、「伝わること」に重点を置きたいと思った。誕生日の日に、髙田さんの講演を聴くことができたお陰で、自分の次が見えてきた思いである。

 「過去は宝。現在は感謝。そして、未来は薔薇色」。どうも私は、生かされている存在らしい。それが「嬉しい」のだ。