「炉端 武蔵」

 私には、何時までもあり続けて欲しい居酒屋3店がある。そのひとつが、東京は新橋駅近「炉端 武蔵」である。私が新人として働き始めた昭和53年頃には、繁華街には必ず、炉端焼きの店があったと思っているが、今は、ほとんど見かけない。そのなかで、このスタイルは、日本の居酒屋遺産のひとつとして営業しているお店には、感謝である。

 今回は、もう30年近くにわたって一緒に映像作品製作を成し遂げてきた花本彰さんと呑んだ。今回も、映像作品製作の打合せで会うことになったのだが、この店に直行した。この店には、国際放送機器展Inter BEE視察のあと、スタッフと必ず足を運んだ店だ。歳を重ねてくると、機器展には行かず、この店からスタッフと合流したものである。酒を呑みながら、その時のことを思い出した。ふと、私のスタッフとして、私の仕事を支えてくれた後輩とは、この席で酒を呑むことは二度とないな、と寂しい気持ちになった。私の後継者だなと信じていた彼は、胃癌で、あっという間に旅立ってしまったのである。

 「無常迅速」。まだまだ、この店で思い出を創って、亡くなった彼へのお土産話としたい。だから、もう少し、待っててくれな。今度は、誰と思い出を創ろうかな。