「ハーバードからの贈り物」

「ハーバードからの贈り物」題したこの本は、アメリカのハーバード・ビジネススクルールでの「最終講義」をまとめた本である。講師14名の講義が掲載されている。

ハーバードでは、講師は最終講義の際、自らの体験にもとに知りうる限りの最良のアドバイスを学生に語りだす。これは、ハーバード・ビジネススクルールの伝統とのことだ。

「転落から高みへ」

「なぜ人はあなたのために働くのか」

「自分らしくあれ」

「まずい食事と真実」

「完璧を求めるな」

「自分を見失いで」

14の講義のなかから幾つかのタイトルを挙げたが、この本の面白さが滲み出ていると感じている。

「信じた道を行くと心に決めたとき、この本を開いてほしい…」

「働きながら生きるすべての人におくる珠玉のメッセージ」

「仕事で落ち込んだとき、くじけそうになったとき、迷ったり悩んだりしたとき、初心を思い出させてくれる…」

私も、ふっとこの本を手に取り、想いを巡らせてきた。

「動機善なりや、私心なかりしか」稲盛和夫氏の言葉に何度辿り着いたか…。

今年の春に読み終えたが、2年ほどかかってしまった。ザ~っと読み進めれる内容ではなかった。読んでは噛みしめ、体験しては、また、読み進める。そしてまた、思惟し修習することの繰り返しだった。

妙法蓮華経法華経(仏教の経典)の法師品10に「若し聞解(もんげ)し思惟(しゆい)し修習(しゅうしゅう)すること得ば、必ず阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい・仏の智慧)に近づくことを得たりと知れ」との文言があるが、本当にそうだと思う。

ハーバードの最終講義のなかにも、その旨が語られている。お釈迦様の時代に説かれたことが、アメリカのハーバード・ビジネスクールでも説かれているのだと感心している。

真理は、いつの時代でも、どの国でも、そして、誰にでも通じるもだと考えているのだ。

他にアメリカのビジネスの強さの要因は一杯あるだろうが、精神面だけではなくスキルとしてのノウハウをしっかりと踏まえて戦っていく姿勢は、アメリカは最高だと思う。つい最近、先輩から紹介されて、ある高校のアメリカンフットボール夏合宿の様子をYoutubeで観た。

「精神面だけで勝てると思うな。技術が伴って勝てるのだ」との趣旨を監督が部員に語っているシーンがあった。

日本の太平洋戦争の敗戦を分析した「失敗の本質」などを読むと

どうにかすると精神論に逃げて、それではやばいと思うと技術論に逃げる。日本は、開戦当時は、技術論にも精神論でも素晴らしかったが、終戦間際になると、最後は精神論の玉砕主義に陥った。

なぜ、両方を生かし、時と場合に応じてバランスをとることができないのだろうか?

私の師は、過去、「その間に挟まれるのが菩薩と言う生き方」と示唆してくれた。そうなのだ、簡単に割り切れる問題に結論出して、何が面白い。そんなことはAIに任せればよい。私は、間に挟まれて悩み苦しみ、どうにかしていこうとする人間ならではの特権を、場を時を得ているのだと思っている。それを生かさずにどうなるっていう思いなのだ。

日本に、ハーバードのように教授が自分の人生で掴んできた生きざまの在り方について講義する場が、存在するのだろうか?メディアもそうだ。日本は言霊思想に支配されているのか。失敗を語ると現実化する、という考えに…。

私の場合は、多くの先輩たちが、語れる場を提供してくれた。今でも、親不孝の懴悔を号泣しながら語りかけて来た先輩・仲間たちの姿は、私の脳裏に、心に、そして、私の生き方に深く刻み込まれている。ありがたい人生だったと思っている。

もっと自分の人生を語る場と時と人があっても良いと思う。

成功だけではない、失敗と思われる人生にこそ価値があることを語れる人、見出せる人になっていきたいと思う。

もっと、失敗と言われる中から得た教訓を語れる世界になると良いと願っている。

そんなことを感じさせる本だった。

最後に講師のキム・B・クラークの講義からの抜粋を掲載する。

 今日、私の仕事は明日のリーダーを育てることーより良い世界を作るための力を伸ばす手助けをすることだ。その力は、あなたたち一人ひとりのなかにある。人間は誰しも、自分なりのよりどころを持っているはずだ。それは必ずしも両親の教えではないかもしれない。恩師や友人のアドバイスかもしれないし、自分自身の価値観や信念かもしれない。でも、私の父と母の言葉を心に留めておいてほしい。あなたが将来、どこにいて、どんな組織で働こうと、あなたの周囲の人びとが「われわれはいったい誰を信頼できるのか?」と自問する時に、その答えは「あなた」であってほしい。

 これから未来に向かって羽ばたくあなたには、おおきな期待がかかっていることを肝に銘じてほしい。行く手にある世界は波風も多く不確かものだー。リスクに満ちている反面、おおきな見返りもある。そのような世界の中で、ビジネスがもっとも力強い力のひとつであることは間違いない。そこで求められるのは、最高レベルの誠実さと敬意と自己責任の確固たる基盤に立ち、社会変革をもたらすリーダーだ。目標を高く掲げることを恐れず、大いなる夢と希望を持って、自分を信じ、周囲の人びとを信頼するリーダーである。

 あなたは、まさにそうしたリーダーの一人となる人間だ。だから私のアドバイスは簡単だ。入念に考え、賢明に選択せよ。自分を律する価値観やしっかりと見きわめ、それに忠実であれ。

 自分を見失わず、思う存分ハイカントリーを