無用之用さん

 「無用之用」さんは、お坊さんの紹介である。三重県で自坊をもつ彼が、東京に出張する際に寄る本屋だ。早速、訪ねた。

「良いのだ」

 まず、想いが引き寄せられたのは、本棚の造りである。鉄のフレームに、リンゴ箱が置かれている。そこに「本」が揃えられている。これが良い。「本」が心地良さそうに収まっている。本とリンゴの棚の雰囲気が、部屋全体にお溢れている感じだ。

 店長の片山 淳之介さんは、初めて訪ねた私の質問にひとつ一つ丁寧に応えてくれた。「何故、リンゴの本棚なんですか?」「イスは何処で買ったんですか?」「本のインデックスのアイデアは?」。そして、「収入は大丈夫ですか?」など。私もいつかは、こうした雰囲気や仕込みの「空間」を創りたかったので、棚の幅やイスの高さまで、メジャーをもって縦横斜めに測ったりしても、嫌なこと嫌な顔をせず、にこやかに応えてくれた。

 2回目に訪ねて、私の、こうした「空間」を創りたいと「夢」を話したら、厳しい顔で、「とにかく大事なのは、その場所が有ること自体が、地域のためになっているかですよ」と教えてくれた。ありがたい。

 この「無用之用」さんからも、新たな「縁」に繋がった。

「佐藤初女」さんの読書会的イベント開催のお知らせが共同主催者の「ほほこれ文庫」さんから届いた。

 佐藤初女さんは、青森県の岩木山山麓に「森のイスキア」という「空間」を建て、苦悩や問題を抱えた人々を、拘りなく受入た人だ。日本中から人々が訪れ、初女さん自身も、声がかかれば日本中を講演して歩いていた。

 一緒に食事をすることによって、苦悩を抱えた人の心を癒したのである。その時に出される食事が、「おにぎり」である。

 私は、龍村仁監督の「地球交響曲(ガイヤシンフォニー)2」で、初めて「佐藤初女」さんを知り、是非、映像取材をしたいと願い、弘前市の「森のイスキア」を訪ねたのである。初女さんの最初の印象は、映画で見た通り。この女性が「おにぎり」で人を救うということに驚いた。多くを語らず、一緒に食事をする。それだけである。人の救いに生涯をかける人を何人も映像取材したが、これほど寡黙な人は、インドで取材したノーベル平和賞受賞者「マザーテレサ」くらいだと思う。

 彼女は、インドの地上最悪の貧民窟と呼ばれたカルカッタのスラム街に住み、「死を待つ人々の家」を開設した。初女さんは、日本の悩みに圧し潰されそうな人達のために、「森のイスキア」を開設した。そういえば、マザーテレサは、日本に来た時、「日本の人は、これだけ豊かなものがあるのに、こころは貧しい」という意味のことを語ったと、日本で活動するマザーテレサのシスターが私に話してくれたことを思い出す。シスター達は、サンダルひとつの持ち物で、日本にやってきて「貧しい」人のために、その生涯を捧げている。彼女たちは、「貧しい」人に「キリスト」を観ているのである。

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 「恵まれない人々にとって必要なのは多く場合、金や物ではない。世の中の誰かに必要とされている意識なのです」

 佐藤初女さんの本を買って、ヨーロッパへの映像取材のために機上にいた私は、めずらしく酒を呑まずに、その本を読み終えた。無性に、佐藤初女さんの「おにぎり」が食べたくなっとことを思い出す。しょっぱい梅干しとともに。

 この「集い」が「縁」で、福岡市で「小さな森のイスキア」の「空間」を開設している吉田夫妻にも出会うことが出来た。佐藤初女さんの講演会などの手伝いなどで、一緒に、日本中をめぐり、佐藤初女さんを良く知るご夫妻だ。話が尽きず、心地良いひと時だった。ここでも、訪ねてきた人には、「おにぎり」を出すとのこと。佐藤初女さんが生きていた。

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「無用之用」。東京に行ったら、必ず訪ねたい場所となった。知り合いの坊さんが、遠い三重の地から神保町に足を延ばす気持ちが良く解かる。

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