「ゆけむり女子会」

「ゆけむり女子会」代表の齋藤優子さんのパワーは、並大抵ではない。

齋藤優子さんと岩観山庭園

 齋藤さんは、山形県鶴岡市から南へ車で50分ほどにある、あつみ温泉の地で生まれ育った。そのあつみ温泉でゆけむりの華を咲かせているのが「ゆけむり女子会」である。最初は、街で商売をやっている女性たちが、寂れいく故郷の状況を見かねて、増えていく空き店舗を活用して、新たな商売を立ち上げようと声を挙げたのがきっかけだった。その後、地域の名産「赤カブのつけものづくり」や、「シナ織の栞づくり」体験教室を観光客相手に開いたり、また、マラソン大会での出店や地域おこしにも積極的に関わっているのだ。その立ち上げの時に、街の女性たちの声で代表に推されたのが齋藤優子さんである。街で電気工事店を営む両親の跡を引き継いで、その店の社長を務めている。

街の公衆浴場
山形県あつみ温泉
温海川ダム

 何故、街の女性たちが齋藤さんを推したのかは、会うと、直ぐ分かる。でっかい声とまあるい笑顔。そして、押しの強さだ。周りの人は、「その声には誰も逆らえない」と苦笑を浮かべると同時に、「本当にお世話になったから」と真顔になる。齋藤さんが街の女性たちから推された第一の理由は、そこにあると思った。その齋藤さんの地元の人のために働く姿以上に、あつみ温泉すなわち故郷再生に傾ける情熱も並大抵ではない。あつみ商工会議所の女性部会の責任者につくと、早速、押しの強さを十分に発揮する。

 「あつみ温泉に直結する高速道路が必要だ」。そう考えた斎藤さんは、市や県の役所はもとより、国土交通省にまで交渉に行く行動力を発揮する。齋藤さん曰く、「あつみの齋藤で~す」で、受付が通るそうである。東京で何度か会うこともあったが、「今日は、何の用事で」と訊くと、「国交省の次官にちょっと」という返事であった。

 また、「地元の社長さんに元気を」、ということで、自分が経営者の学びを深めた「経営者塾」の先生を、三顧の礼を尽くして、あつみ温泉に連れて来た。そして、ホテル経営の社長をはじめとした地域の経営者の勉強会を始めたのである。結局、その先生は、何度もあつみ温泉を訪れることになる。

 その齋藤さんが、地元の老人の方々をはじめ、多くの人々のための憩いの場として整備したのが「岩観山庭園」である。なんと、800坪近くある土地を購入し、庭園として整備したのである。それも全部、自腹だ。齋藤さんと交渉した地主さんは、「齋藤さんが買うなら、山もくれてやる」と言ってくださり、庭園を囲む山をも手に入れたのである。

岩観山庭園

 もうひとつ、齋藤さんには、地域応援ということで、地元出身の歌手「佐藤善人」の応援団長の姿がある。とにかく、その熱狂ぶりは凄い。一途である。カラオケの持ち歌も「善人」の唄、そして、カーステレオから流れるのも「善人」の曲。

佐藤善人

 齋藤さんから学ぶのは、地元愛と人への愛である。私が、地域で「場」を創りあげたいと、よく見学に行った神保町の「無用之用」の店長の片山淳之助さんは、「地元で場を作るなら、地元のためになることをしなさい」と諭してくれた。よく三惚(さんぼれ)と言われるが、「土地に惚れ、人に惚れ、仕事に惚れる」。それが商売の成功の秘訣であると学んだことがある。その実践者であり実証者であるのが齋藤優子さんだと思う。当の本人は雄弁に語らなくても、周りが証明してくれている。

 令和4年11月、私が事務局長を務める経営者ネットワークのメンバーと、あつみ温泉を訪ねた。その時のことを、今年になって電話で話した。齋藤さんは、その受入の準備・片づけで毎日1時間しか寝れなかったと、さらりと会話の途中で語っていた。会話しながら、酒を呑んで寝てしまっていた自分を思い出し、申し訳ない気持ちになった。

 「あつみの齋藤で~す」。「その声には誰も逆らえないです。本当にお世話になったから」。